閃光のハサウェイ

映画、閃光のハサウェイが良かった。

「映画を作るのだ。少し予算に色のついたTVの延長線やOVAのイベント上映ではなく、映画を作るのだ」というのが全体を通じて感じられた。
いや自嘲も込みなんですが、上映されるアニメ作品の中できちんとした映画作品ってぶっちゃけ何割ぐらい?と思(お通夜の念仏を夜通し唱えることになるので略

劇中何度も「映画を見ている」という感覚になったし、この感覚は実写でも少ないのでほんとうにありがたい事なのですが、
この映画的なものを構成する要素は何なのか少し復習も兼ねて列挙したい。

構成、構図、タイミング、色、音あたりで雑多に。


構成

まず冒頭のシャトルからして色々と凄い。2001年宇宙の旅などを踏まえた上で、小物を含めた近未来の宇宙旅行の演出や、引き画で長回しの大気圏突入(個人的には近年最高の大気圏突入シーケンスはプロメテウスだと思ってるのですが、あの引き画の俯瞰長回しはちょっとオマージュしてるのかも、と好みに引っ張られて妄想した)、
また座席のちょっとした視点移動の3D使いなど、構成や手法が高級感にあふれてる。
正直この冒頭を予告で見て「映画館行かなきゃ」と思った。いや行ってよかった。

全体でも押井守作品のダレ場のような街中散歩のシーケンスがあったり、作中のテンションの上下と人物の演技を合わせていたり(戦闘が終わった後のギギのあくびとか)、映画の流れが意識されてて良い。(この辺り原作の取捨選択や再構成の上手さだと思う)

それと全体的に、観客に対する信頼度が高めなのが良かった。
シャトル襲撃で敵が拳銃を落とすのを目立たせるけど、拾う所は見せない。
場面変わって次のシーンではもう銃を持ってる、とか。
人質解放する時も、ズームウィンドウの中で味方の射線を遮って射撃を止めさせるとか。
もう一段セリフなりカットを割って説明しそうな所を、見ればわかるように描いてる。よき・・。

自分は原作未読だったので、ストーリーもハサウェイの立ち位置が暴露していく流れで構成されてて良かったと思う。
それと、ジンジャエールなかなか飲めない、というのも意識的な構成ですよね。



構図

自分も常々気を付けていることなんですが、
映画とTVとモバイルなどでは「適合する構図」が異なる。
画面の小さいモバイルでは寄りの画が見易くなり、引きの細かい構図や風景の臨場感は味わえない。
逆に映画の大画面では、引きの風景や遠くにある情景描写であったり、主題となる人物等を小さく描いたりする事で、世界観への没入度を高める事ができる。
ただし、精細な画面描写のカロリーはとても高く、大変になる。
個人的に良い映画は引きの画が上手いとすら思ってる。

ハサウェイでは様々なシーンで引きの画や高密度な背景、遠景での状況描写が多く、映画的な構図や画面設計がだいぶ意識されていたように思う。
夜の市街地の戦闘では遠景の街や迎撃ミサイルの点描、長いPANで別区域の目標ビルを描いたり、背にした市街地に流れ弾で被害が出る様子も精細に描く。
また地上では人物が逃げ回り、手前の小さな人物の後景で巨大な力が暴れ回る構図をとる。
ほんとうに大変。でもこれが見たかったんです。めっちゃ最高。

あとリムジンとエレベーターで、顔を寄せてささやく演技がとってもよかった。



タイミング

様々なカットでアニメの平均よりも尺が長めで、情景や戦闘での遠景を捉えるカット事が多かったように思う。
もちろん長回しの分カロリーも増えるけど、確実に映画としての質が上がる。
恐ろしいのは押井監督のようにFIX多用の長尺というよりも、CGや実写に近いような、対象を追いかけてゆく長めのタイミングや構成が多い事。
長めの尺でありつつも長いPANを重ねて、周囲の状況を描いたり、コクピット内の視点移動だったり。
いやあ大変。しかしすばらしい。。。

それと今回の長回しの中で私的に好きなカットの一つは、
途中立ち寄る島の全景を、道路に沿って流して見せるカット。
本編ではそれほど重要ではない島で、
普通のアニメならまずやらない高コストのカメラマップ系カットを、やる。
凄い。
例えば市街地の高級ホテルのビルは戦略目標なので、きちんと3Dで起こすのもストーリーに見合って意味が大きい。
けれど、あんな島を3DBGで流して見せるなんて普通アニメではやらない。
それでも自分はあのカットで、確かに「映画としての情景描写」を感じられた。
最初何秒かは「よくやるなー」と思ってたものが「あ、これは映画のカットだ・・」と認識が変わったし、もし自分だったらこのカットを入れる発想も出なかったであろう事を反省した。
意味はあった。いろんな面で映画として、あのようにきちんと世界観を見せるという事を積み重ねてる。



色

これはもう見りゃわかるんだけど色も良い。
特に、きちんと暗いところを暗く落とす勇気。設計の上手さ。
薄明の中でビームが閃く戦闘も、閃光のハサウェイという題とも通じて良かった。
この辺りはもうカットごとに分析したい。めちゃくちゃ良い。
撮処理とか見ながら書いてったら多分2記事以上書き連ねる。
本来一番長くなりそうなのに短めでさーせん・・
煉獄さんみたいに1カット毎に「うまい。うまい。」って言ってると思う。



音

特にコクピット回りの警告音やガンダムの推進音。
市街地侵入シーンの、雲を跨いで上昇するカットで感じたけれど、(あれはジェット機映画の名作、ナイトオブザスカイのオマージュだと思ってます)
今回の空中戦、特にコクピットや海上シーンのガンダムの扱いなどは、
だいぶ戦闘機に近いものとして演出されてますね。

この飛行シーンをめちゃくちゃ盛り立てているのが大量の計器類のSE(今までのガンダムのお約束サウンドをあえて避け、戦闘妖精雪風のような系譜に寄せてると思う)だったり、ガンダムの独特な飛行音だったり。UIも良かったねえ。

たぶん、初の自立飛行型でミサイル持ちというガンダムの機体設定や、
どう見てもアクション向きではないデザインから「空中戦は戦闘機に近しく扱おう」と導いた演出の方向性だと思うんだけど、
戦闘距離が遠めになったり(人質解放の時もズームウィンドウで見ているとか)、近接アクションが少なめなのがリアリティの向上にものすごくプラスだった。
場合によっては地味と言われるかもしれないけど自分はこっちもめっちゃ好きだし、作品としてはこれが良かった。
ハサウェイという作品のリアリティラインでは、超機動で空間に軌跡を描きながら飛び交うよりも、戦闘機のような空間戦闘が合ってる。
たぶん、そこを超えたら文字通り地に足がつかなくなるというか、超兵器過ぎて映画としての質感を壊してしまうだろうし。

あ、あと劇伴もそうなんだけど、節々でノーラン監督作品意識してますよね。
アニメでノーランやるとか狂気の沙汰だと思うのでとりあえず敬礼したい。
まあノーラン監督も押井監督や今敏監督のアニメ要素オマージュしてるし、そこからさらにアニメに戻ってきて、やはり表現は行ったり来たり様々な積み重ねなんだなあと思た。

たぶん細かい部分を見れば見るほど色々出てきそうな作品なんだけど大まかにこれぐらいで。
あとは、現場が平和だったことを祈る。最近これは外せない。